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KAYAMAMEAT
Diary


a la mer, de la mer, pour mon cheri


100



春霞み

4月09日

桜の花に思い出があります。

元気で当たり前だと思っていた母が、病気で入院したのが
冬から春になろうとする頃でした。

おろおろする父と共に、まだ、一歳だった長女を
つれて 検査 入院 大学病院の転院と毎日、病院通いでした。

暗くなった道を3人で戻り、別れ際に自宅に帰る父が
「とうとう、一人になっちゃうんだな」と言いました。

父より遅れて、病院に行った日 病院帰りの父を駅に続く
商店街で見かけました。

声をかけようと近づくと、父は宝石店のウインドーの
真珠のネックレスをじっと見ていました。

40年近く一緒にいて、宝石ひとつ買ってやらずに
今、病院のベッドに寝て、命の保障をされない手術を
受けようとしている母を思っていたのかもしれません。

母が宝石が欲しいのかどうかも考えた事が無いまま
一緒にいた年月を父は思っていたのかもしれません。

私は宝石店の手前を脇道にそれて病院へ行きました。

検査結果や容態に一喜一憂し、友達が紹介してくれた
ドクターに何人にも会い、
白衣の裾を翻すように病院の廊下を走ってくる友人に
そのまま引っ張られるように、一緒に病院内を走りして
やっと、落ち着いた頃、気がつきました。

今年は、桜が咲いたのも、散ったのも、全然気がつかなかった事に。

桜の中を歩いたはずなんです。
その時、私は母以外の何も見ていなかったのでしょう。

毎年、桜を見て思い出すのは、
桜を見なかった思い出です。

 

父は真珠を買いませんでした。

「真珠のネックレスを買ってやろうかと思う」
とも言いませんでした。

じっと、見つめていた父の姿だけが私の胸にあります。

気持ちを品物にしなかった分だけ、言葉にしなかった分だけ
心がそこにあるような気が 私はしています。

誰も知らない、誰も見えない真珠のネックレスが母の首に
かかっているのを知っているのは私だけです。


 

あの日、真珠のネックレスを買ってもらいそこなった母は
なんと今も 元気です。

買わなくて良かったね、じぃじ。

買ってたら、今ごろ
「なんで、俺はあんなもん買ってやったんだ」と
真珠なんか買った自分を殴りたくなるかもだからね。

いつもの口喧嘩で遣り込められて
言い返せない悔し紛れに

「あれは、豚に真珠だった」とか言ったら
大変な事になるんだからね。

 


 

 

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